ブラッとするには 丁度良い距離

by スタジオ亜空間

☆ 未来を探して 今日も何処かを ブラッとしています 平岡莉貴 ☆

ハロハロということ


 フィリピンでもっとも貧困な所はネグロス島と言われている。
  そこから仕事を求めてマニラにやってくる人々は後を絶たない。
  現在フィリピンの人口は約6240万人で、そのうち約800万人がマニラ市の人口だ。その人口は増え続けている。
  そして800万人の約3分の1がいわゆるスラムに暮らしていると言われている。貧困から脱出するために、仕事を求めてやって来た、マニラ。大都会、マニラ。そこにも仕事は、無い。
           
  マニラ市の北部。パッシグ川の北あたりがトンドと呼ばれるスラムが広がり、そのなかで特に貧困なのが「スモーキーマウンテン」と呼ばれる一帯なのだ。
  スモーキーマウンテン。
  これは正式な呼び名ではない。
  そこはマニラ市最大のゴミ捨て場なのだ。
  普通のゴミ、粗大ゴミ、空缶、そして生ゴミも一緒に捨てられる。分別処理などされていない。
  生ゴミが有る。永年捨てられ続けた生ゴミからやがてメタンガスが発生し、何かの拍子に発火する。いつも煙が上がっている。
  それを見た外国人がいつのまにか「スモーキーマウンテン」と呼んだらしい。
           
  一日中ゴミの中に居て、やっと家族3人が一日だけ食べることが出来るだけの金を手にする事が出来る。仕事が無いから、それで生活するしかない。
           
  地方から職を求めてやってきた人々は、どこにも職がないことを知り、やがてスラムに住み着く。住むところも無いためスラムに行き着く。そしてここが、出口の無い人間のゴミ捨て場だと知るのに、時間はかからない。
           
  と、堅い話はこれまでとしょう。
  前回ここにやってきたJCのメンバーの話だと、「とても人間の住めるところではない。生ゴミの腐った匂いが立ち込め、吐き気を催す」と言うことだった。覚悟をして行ったのだが...
  なんて事はない。私の鼻が鈍感なのか? それとも匂いをあまり気にしない性格なのか? 一向に気に成らないではないか。
  ゴミを運んできたトラックにカメラを向ける。陽気な笑顔が手を振る。こっちも手を挙げてシャッターを押す。
  熱心にゴミを拾っている子供の横に行って、一緒にゴミを拾う。
  空缶だ。これは金に成る。こっちは拾っても仕方がない。と、あどけない顔が指示を出す。いい笑顔だ。
  生ゴミから出る汁が手を濡らす。その手でカメラを構える。また空缶を拾う。
  足に何かが当った。犬の死骸だった。
  スモーキーマウンテンに居れば、全く気になるシロモノではない。ただ、そこに落ちているゴミと変わりはない。
           
  「ごったまぜ」何でもかんでも混ざっている状態。いろんな物が混ざって、一体となり、一つの物を形成している。ゴミも人間も同じレベルで一体に成っている場所。そのような状態を「ハロハロ」と言う。
  「ハロハロ」状態から抜け出すことが、これからの子供達の課題だ。
  彼らの笑顔を見ていれば、いつか必ず抜け出せると感じる。
  「将来、歌手に成るのが夢です」
  少女がそう言った。
  そう言って、はにかんだようにうつ向いた。
  「頑張れよ」
  心のなかで、私はつぶやいていた。
           
  1993年7月1日。フィリピン政府は正式に、スモーキーマウンテンを廃止した。
  もうこれからは、ここにゴミが捨てられることはない。
  最後の生活の手段が無くなった彼らの行き場所は、もうどこにもない。
           



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