ブラッとするには 丁度良い距離

by スタジオ亜空間

☆ 未来を探して 今日も何処かを ブラッとしています 平岡莉貴 ☆

天使の寝床


 メトロマニラ。
  華やかな、メトロマニラ。
  地方から、夢を追いかけて人々が集まって来る。
  人々の数だけ夢がある。そしてほとんどの夢は、幻となる。
  マニラ、マカティ、パサイ、ケソンを含む巨大な都市、メトロマニラ。
  巨大ゆえに歪がある。
  仕事がない。
  食えなくなった親は、子供を捨てる。
  捨てられた子供は、自活を強いられる。
  街で新聞を売る。タバコを売る。
  花束を売る。
  夜は路上で眠り、物乞い、売春、麻薬に手を染める。落ちるのは、早い。
  一度ストリートチルドレンとなった彼らは、生存意欲を失って行く。
  生存意欲は失っても、生存本能は残る。
  生きる為なら、どんな事でもするように成るだろう。
  ヴウオー、ガー。
  まるで消音器をどこかに捨ててきたような排気音が、動きを止めた。
  ビービーッ。
  強烈なホーンが鳴り響く。
  眼の前の信号が赤になって、私達のバスは停止した。
  コツコツ 「シガリロー」
  10にも満たない男の子が、車内を覗き込んだ。
           
  現在メトロマニラには5万から7万人のストリートチルドレンが居るという。
  そんな彼らにどのように接すれば良いのだろうか? 彼らから品物を買って上げた方が良いのか? それとも無視することが良いのか? 随分と迷ってしまう。
  彼らから品物を買うことが、彼らの為を思っての事だろうか? 多くの観光客は、ストリートチルドレンに対し優越感を持ち、「恵んでやる」と云った感情で接してはいないだろうか?
  本当に彼らのことを思えば、必要以外無視する方が良い。たとえ品物を買っても、料金の大半は彼らのボスが吸い取ってしまい、彼らに与えられるのは、一日の食事だけなのだ。
           
  そんな彼らに、本当の意味で生存意欲を与えなければならない。
  その為にストリートチルドレンセンター「センデンホーム」が、有る。
  「センデンホーム」はそんな彼らの保護の為に活動を続けている所だ。
  これはSCJ直接の活動ではない。
  現在計画中のストリートチルドレン事業のモデルとして、参考にしている処だ。
           
  ピョコン。
  幾つ位だろうか? 男の子が頭を下げた。
  人懐っこく摺り依ってくる。
  「センデンホーム」に見学に入ったときの事だ。
  言葉が通じないのが辛い。でも、こんな時には言葉なんて必要無いだろう。
  同行のSCJ理事長の立野純三氏と理事の長谷川恵一氏の間に、座ろうと男の子が割って入る。無邪気だ。両氏も破格の笑顔を見せている。
  男の子が私に向かって、手を振る。
  写真を撮ってくれと言っているようだ。
  ファインダーの向こうで、本当にうれしそうにはしゃいでいる。
  後から聞けば、彼は両親にかなり苛められていたそうだ。
  貧困が人々の心を荒廃させ、児童虐待に走らせる。その結果、彼の精神状態が異常に成っているそうだ。
  なんともやり切れない思いがする。
  貧困で子供を捨てるよりも、恐ろしい事だろう。
  「センデンホーム」に来てから、彼は明るくなった。いつの日か自立出来るときが来るのだろうか? 頑張って欲しいと思う。子供たちも、ホームの職員たちも。
           
  今、「センデンホーム」で見た彼らのベッドが心に残っている。
  板で作られた、ベッド。毛布一枚敷いただけのベッドだ。
  うれしそうに「ここで眠るのだ」と言う子供たちの笑顔が、頭に焼き付いている。天使の寝床が、路上から板のベッドに替った。
  暖かい親の愛情と、柔らかいベッドクロスにくるまって眠ることは、天使たちには許されていなかった。
           

ページ先頭へ 前へ 次へ ページ末尾へ